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by 1193ru
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振り返らずに殴り書き~スウェーデンつれづれ旅日記(3)

○月△日(×)ストックホルム 午前
 朝、巨大フェリーが音もなく運河―自然の川?-に入ってくる。金色の朝陽に輝くそんな風景をホテルの部屋から見降ろしながら、昨日の犯罪被害者庁を振り返る。なぜあそこまで多くの女性が活躍しているのだろうかと。
 ここはスウェーデン。女性の就業構造は日本と異なる。年齢別女性労働力率は、日本は「M字型曲線」で表わされ、子育てと仕事の両立が困難な状況を物語っている。かたやスウェーデンは「逆U字型曲線」を描く。スウェーデンでは女性の労働力率は極めて高く、日本で下がる20代後半~30代後半の年齢層でも、下がらない。いわゆる「働き盛り」と言われる年代が、きちんとあたりまえに女性にもあり実現されているということだ。
 スウェーデンの就業構造を公共部門と民間部門での就労者男女比からも眺めてみると、ここでもおもしろいことがわかる。公共部門の男女比は26%vs74%。民間部門では64%vs34%。公共部門の中でもとりわけ地方公務員は、女性が80%と圧倒的な数を誇る(参考文献;SCB,Stratistisd arsbok for Sverige 2009、ELDER 2010.1)。公共部門での働きやすさは言うまでもないだろうが、それよりもここスウェーデンでは福祉や教育等の分野にたくさんの女性たちが雇用されていると言えるのではないだろうか。それは、福祉や教育に女性の視点が生かされているとも言える。だからこその制度、だからこその法律…そんな気がしてきた。思考を戻そう。犯罪被害者庁の女性職員の圧倒的な数。あれは、この国のお役所では当たり前の風景なのだ。そうここはスウェーデン。残念ながら日本より20年も30年も先を行く、福祉・男女共同参画先進国なのだ。
 さて、今日は、ROKS(ロックス)とBOJ(ボーイ)の視察。
 ROKSは、1984年に設立された女性支援センターの全国ネットワーク組織の総称だ。私たちは今日、その本部を訪れる。フェミニズムの理念に則り女性と子どもへの暴力防止と被害者サポートを精力的に推進している組織。本部は、スウェーデン国内約100ヶ所の支部の活動や財源を支えているともいう。財源は、昨日訪れた犯罪被害者庁から出ているとのこと。一体、どんなところでどんな人たちが動かしている組織なのか、わくわくしてしまう。
 朝食後、タクシーでストックホルム中心地へ移動。通訳のMr.Tと合流。時間経過とともに、Mr.Tに変化が見られる。それもそのはず、大御所御三方がたわいもない会話を装いつつDVや性暴力、フェミや男女共同参画について、専門用語のひとつも使わずそれはもう驚くほど自然な流れでどんどん教育(洗脳?)していっているからだ。もちろん、劇的な変化ではない。ウン十年の人生はそうそう覆されないのだ。残念ながら。それでも、海を渡っても尚、日本の男を教育し続ける御三方は凄い。御三方の辞書には「諦め」や「妥協」なんて毛頭ないのだ。あるのは、「希望」と「実現」、そして「行動」。
 ROKSの入っているビルのセキュリティーは、犯罪被害者庁までではないがなかなかしっかりしていた。これは加害者対策なのかと思ったら特にそうではないとのこと。このビルはおもしろいことに上階は居住フロアになっていて、エレベーターで乳幼児を連れた老女と一緒になった。老女はROKSのことをよく知っている風で、海外からの訪問者も全く珍しくはないというような様子。片言の英語で「どこから見に来たの?」と聞いてきた。それほど、事務局の場所はオープンにされている。先ほどのセキュリティーのこともあり、「加害者からの襲撃等はあるのか?」と尋ねたところ事務局スタッフはあっけらかんと「ない」と言う。ごくたまに加害者らしき男性から困った電話が入るとのことだったが、それも大したことがない程度だと言う。
 さて、このROKSは、美しくファッショナブルな女性7名によって運営されている。事務所内は、どこぞの大手代理店本社の会議室さながら非常にオシャレで機能的な雰囲気を醸し出している。全国支部数約100。犯罪被害者庁からの財政支援は1,390万SEK(約2億円)。このお金を各支部の運営(人件費含む)や暴力防止の広報・教育活動、被害者支援活動へ振り分けている。Mr.Tが「2億円」と通訳した途端、なんとも表現できない衝撃が視察団に走ったのはいうまでもない。そう、ここはスウェーデンなのだ。
 パワーポイントを使った説明が始まる。しょっぱなすぐにROKSの理念が映し出された。そう、フェミニズムのことだ。これほどまでに全面にフェミニズムを打ち出し第三者へ説明をしている組織を、私は日本国内では知らない。もちろん、私たちハーティ仙台も全国女性シェルターネット、フェミニストカウンセリング学会もフェミニズムを基礎としている。しかし、視察が入った時、一番にフェミニズムのことを伝えることはしていないように思う。そのせいか、ROKSのパワーポイントは私にとっては衝撃だった。そして、フェミニズムが世界共通の姿勢だということが非常にうれしく、力を得た思いがした。
 ROKSのサポート理念は、暴力被害から自ら立ち上がろうとする被害女性を支援するというものである。被害女性たちへ自信を持たせることからはじめ、自ら人生を選び決定することを支援する。その際、同じ女性の仲間同士という平場性を非常に大切にしていると説明を受けた。この時、私は仙台の先輩方の顔を思い出していた。ハーティ仙台の先輩方や仙台弁護士会の女性弁護士たちの顔が次々浮かぶ。ここにはいないはずの先輩方が、ROKSのスタッフの姿を借りて目の前に現れたような、そんな錯覚にとらわれた。それほど、暴力被害女性の支援者は、そっくりだ。皆、同じことしか考えていない。「被害者の回復と暴力根絶」しか考えていない。
 ROKSの相談実績については、以下の通り。性暴力に関しては、日本とスウェーデンの数字を掲載する。比較して見て欲しい(参照;特定非営利活動法人全国女性シェルターネット「スウェーデン視察報告」)。

■ROKSが対応した2007年度の実数
電話相談(再相談含む)28,859件
自治体や警察からの連絡9,657件
何らかの対処をしたケース数49,576件
シェルター受け入れ件数967件
シェルター平均滞在日数58.67日
地方自治体や関係機関に繋いだ件数932件

■性暴力犯罪に関する実数
スウェーデン日  本
警察に届けられた2007年度の性暴力犯罪件数26,857件1,776件
推定される性暴力犯罪件数(届出率を20%と算出)134,285件2,600,000件

 ROKSの活動は、大きく3つに分けることができる。
 1つ目は、広報活動。年4回かなりファッショナブルなオールページオールカラーの冊子を刊行している。この冊子は、実費原価で販売され収益は活動へ還元される。そのほか、リーフレットやポストカード、書籍も精力的に作成している。地下鉄駅や地下通路をはじめとする公共スペースに、支援者や被害者の顔写真を大きく使ったハイセンスでインパクトのあるポスターを一斉掲示したりと、積極的に社会へ投げかけている。
 2つ目は、研修教育・ロビー活動。犯罪被害者庁の職員もそうだったが、ここROKSのスタッフも裁判官や警察官・福祉局職員への研修を国から請け負っている。また、国が新たな施策を検討したり新法立案の際には、専門家集団として意見提言も行っている。
 3つ目は、290のコミューン(日本での市町村自治体)にある約100支部の運営サポート。各支部とは協同組合方式をとり、支部はそれぞれ独立して活動を展開している。各支部の人的・物資的・資金的規模にばらつきがあるため、そこを補い繋ぐ役割をROKSが担っている。支部になるには最低条件として電話相談を開設しなくてはならないが、その対応も各支部によってまちまちであり、そのサポートもROKSは行っている。
 ここで、スウェーデンの女性センター(シェルター)についてお伝えしたい。
日本は自治体が設置するケースほとんどだが、スウェーデンでは民間(ROKSの支部)による設置が先行している。民間のセンターがないコミューンにおいては、自治体が設置する。センタースタッフのほとんどはボランティアで、スタッフを雇用しているセンターは一部にとどまる。支部によっては、暴力被害女性と子どもにとどまらず、レズビアンの被害者を対象に活動しているところもある。また、性虐待を受けた子どものサポートに力を入れている支部もある。性虐待を受けた子どもは、母親と一緒にセンターへ入所が可能である。また、幼少期の性虐待によるトラウマやPTSDを抱えた女性も支援の対象となり、自治体から派遣された精神科医やスタッフがサポートに入る。
スウェーデンでは、外国籍の移民女性でも、スウェーデン人と2年間同棲をしていたことが証明でき認められると、永住権が取得できる。そのため、永住権取得のためにDVに耐える女性が後を絶たず最悪の事態になることも少なくない。そこで、スウェーデンでは同棲中のDV被害については、永住権に関する例外措置を認める通達を関係機関に出している。センターでは、このよう移民女性たちも支援対象であり、入所が可能である。国籍の関係からアパートや仕事の確保のハードルが高くセンター滞在日数が長期化する傾向があるのは、日本と同じである。
 ROKSは、全国女性シェルターネットが目指すひとつの理想モデルである。ハーティ仙台は、現在、同ネットに加盟し仙台・宮城・東北を中心に被害女性と子どもの支援をしている。私たちと同じような団体が、日本各地に何十もある。今後、同ネットはROKSを目指し組織の拡大・活動の充実を進めていくのだと思う。同ネットに期待することはたくさんあるが、やはり何と言っても大規模予算の獲得だろう。福祉―特に女子どもへの国家予算自体が少ない我が国で、どこまで獲得できるのか?-予算配分の根本からの見直しなくしては考えられないことだ。そのための政治力が私たちには必要になる。議員とのネットワークはより強固に構築しなくてはならないだろう。同ネット事務局は中央から、私たちのような団体は地方から政治力を上げていく。ヒアリングをしながら、頭の中はハーティ仙台のことでいっぱいになる。私たちが仙台・宮城・東北で政治力を上げるということは、具体的にどんな形なのかと。
 すでに理想とするモデルはここにある。モデルからエッセンスを抽出し、現場で活かす。我が視察団に課せられた使命は大きいのだ。               
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by 1193ru | 2010-03-14 23:22 | スウェーデンDV